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「お土産、渡そうと思うんだけど」
翌朝、私の部屋に訪ねてくるなり彼女は言った。お詫びにくる相手にお土産だなんて、律儀な人だと思う。
「何がいいと思う?やっぱり八ツ橋かな」
「そんなん修学旅行か言われんで。……そういえば前、なんかすごい綺麗なお菓子、テレビでやってたわ」
「どんなの?」
暇を持て余していた春休み、私はひたすら昼下りの街ブラ番組を観ていた。京都の小さな和菓子屋さんにあったそのお菓子をみて、綺麗やなあ、まるで空の青みたいやわあ、とリポーターが褒めていたのを思い出したのだ。手元のケータイに京都、和菓子、空色、と打ち込むと、意外とすぐにそのお菓子の画像が出てきた。
「本当、綺麗だね」
ベッドに腰かける私のケータイを彼女が覗き込む。髪が揺れて、赤ちゃんみたいな優しい匂いがした。
「村木製菓舗だって」
「烏丸五条か。まあ歩きでもいけるかな」
「じゃあ着いてきてよ」
彼女はまっすぐ私をみて言った。眼前に彼女の薄い唇があってつい目をそらす。きっと彼女にこう言われてついていかない人なんていなかったんだろう。その一言で、彼女のこれまでの人生が手に取るように分かった。しっかりしてて、物怖じしなくて、人望も厚い。なのに、だから、彼女はふるさとを離れなくてはいけなかったのだ。
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