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いってきます
「おかえり」
彼女が帰ってきたのは夕方の六時を過ぎた頃だった。少しくたびれていて、でもどこか清々しい顔をしていた。手にはお土産を持ったままだった。
「その子にはちゃんと会ったし、ちゃんと話せたよ。でもその後、駅で気分悪くなっちゃって。そこを助けられたの」
「誰に」
「近所の大学生」
「それ、男?女?」
「男」
「え、」
「ああ、大丈夫。その人のお家、小さなお医者さんでね、病室で寝かせてもらってたの。そのあとお家で、その人と、その人のお母さんに今日のこととか色々聞いてもらったんだ。たくさん泣いてきた。これから時々遊びに来ていいよって、言ってくれた」
「それ、ほんまに?」
「本当だよ」
「ほんまのほんまに?」
「本当の本当に」
「なんやそのマンガみたいな話」
たまらなくなって、私は彼女を抱きしめた。本当にそうならいい。良かったのだ。彼女の冷たい手を思い出す。
「遅くなって、ごめんね。心配かけちゃったね」
彼女は私の背中にそっと手をあてた。
「お菓子、渡そうとしたけれど、なんだか渡せなかった。二つはね、その人とお母さんにあげたんだ。私も一緒に食べても良かったんだけど、山田さんと食べたいなと思って、持って帰ってきた」
彼女の手のひらのあたたかさが、背中に伝わってくる。
「一緒に食べよう。私、大切な人と食べたかったんだ、このお菓子」
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