非-我について

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「なんだったんだ……?」 僕は再び、あの光を指輪に見出そうとしたが、その試みは虚しく終わった。何度試しても、先程の感覚を取り戻すことができない。 僕は諦めて時計を見た。時刻は八時を回ったところだった。僕は自分が空腹であることに気づき、そういえば昨日の夜から何も食べていないことを思い出したので、コンビニに行くことにした。僕が待合室を出てエレベーターに向かっていると、ナースステーションの方が何やら慌ただしかったが、僕は気にせず通り過ぎた。 コンビニに入ると、僕はまっすぐ惣菜パンのコーナーに向かった。ちょうど朝の補充が終わったところらしく、商品が豊富にあったので柄にもなくウキウキしてしまった。悩んだ挙句僕はソーセージを挟んだパンとレタスサンド、それから野菜ジュースを手に取り、レジに向かう。レジには若い女が立っていて、僕が近づくと「いらっしゃいませー」と元気な笑顔で言った。彼女が商品のバーコードを読み込んでいる間、店内には僕以外に客がいない様子だったので、ちょっとくらい話してもいいかと思い、気分も良かったので彼女に話しかけた。 「実は今日、娘が生まれるんですよ。いま帝王切開の処置をしていましてね」と僕が言うと彼女は手を叩いて「おめでとうございます!」と言った。 「名前とかはもう決めていらっしゃるんですか?」と店員は僕が買った商品を袋に詰めながら訊いてきた。 「ああ、ずっと前からもう決めている」 「そうなんですね、私そういうの決めるの苦手だからギリギリまで決められなさそうです」 「適当でいいんだ。愛着なんて後から湧いてくるものさ」 「そういうわけにはいきません。親から子供に送る最初のプレゼントなんですよ?」 「君は真面目な人間だな」 「真面目に生きるのが一番楽ですからね」 「でもたまには羽目を外してみるのも悪くない。じゃないと結婚なんてできないからな」
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