非-我について

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僕と詩子の結婚はお互いの両親に反対された。僕は大学を卒業して進学する予定だったし、詩子には両親が決めた許嫁がいたから。結婚しようと言い出したのは僕からだった。 詩子は親が決めた許嫁と結婚するのを嫌がっていたが、悲しくもその現実を受け入れていた。その許嫁というのは彼女と同郷の男で、その男の父親と詩子の父親はお互いに製糸工場を経営する会社を運営していた。詩子の父親の会社はいわば下請けであり、男の父親の会社は自分の一人息子に跡取りを作らせたと考えていたがなかなか結婚ができないので、詩子の父親が自分の娘を差し出したのだった。おかげで経営不振に陥っていた詩子の父親の会社は仕事を優遇してもらえるようになり、売り上げも回復して多くの従業員が救われた。 しかし、望まぬ結婚を強いられることになった詩子は犠牲になった。歳が十年以上離れた男に身を捧げることを受け入れたのだ。
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