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世界が終わる。地球最後の日だ、多分そうに違いない。
地震、雷、噴火に津波と、人間が自然災害に押し潰されていく様を目の当たりにしていながらも残った人々は最後の希望に縋っている。きっとまだ助かると思っている。
皮肉にも、そんな人々に訪れたのは極寒の吹雪。さながら氷河期を迎えたとしても何ら違和感のない凍土の時代が訪れる。徐々に食料も底を尽きていく恐怖に怯えながら餓死していく人間が増え始めていた。
そんな中、生きる事を最優先とし旅を続ける一組の少年少女の姿があった。
暦の上ではまだ七月だが、それを忘れてしまうほどまだ雪が積もる高台の公園。丘の上から見下ろす景色は一面銀世界、かつて存在していたであろうビル群や住宅街も地震で崩れ去り津波で流されたか雪の下にでも埋まっているのであろう。
少年はガソリン切れのバイクを背もたれにしながら地面に胡座をかき煙草を吹かしている。その表情は決して休憩中の余暇を楽しむ様なものではなく、まるで辛い現実から目を背けようとする虚無感を帯びていた。
それとは対照的に、年代物のライカで風景の写真を撮る隣の少女の表情は決して明るいわけではないが、目の前の風景を撮ることに集中していた。
そんな少女の姿を見て少年は思わず呟く。
「なぁ、お前さんは怖くないの?」
「何が? あぁ、確かに不安ではあるね」
クスクスと、最早車輪のついた動かないガラクタを指差して少女は笑う。
「こいつが動かなくなったらもう何処にも逃げられない。次に吹雪がくれば俺らはこの雪山でお陀仏だ、それなのになんで呑気に写真なんて撮ってやがるんですかねぇ」
少年の顔には言葉ほど苛立ちはない、もうどうにもならないという諦めの方が強いだろう。そんな言葉を受けても少女の表情が曇ることはなかった。
「だってもう僕達は死ぬかも知れない、誰にも助けてもらえないかも知れない、でも僕はそんなことどうでも良いんだ」
「意味がわかんね、死ぬことに抵抗が無いのは勝手だが俺は御免被りたいねぇ」
口では反論したい気持ちが強い、だが少年は今の状況で死にたくないとは言えるが生き残りたいとはどうしても言えなかった。
かつて日本だったこの国ではマイナス60度以下の吹雪が来ることなんて有り得なかった筈だ。いつ来るか分からない死の吹雪に怯えながら旅をする少年少女の旅は、今まさに終焉を迎えようとしていた。
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