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そんな中でも少女は写真を撮り続けていた。それが生き甲斐であるかの様に、将又それが指命であるかの様に。
「そう言えばお前さん、前に『今日が人生最後だとしたら僕は写真を撮ってるかもね』とか言ってたな。本当にそのようだが」
「うん、そうみたいだね」
「なんでだ?」
少女はカメラを大事そうに撫でながら語る。
「お父さんが 昔このカメラをくれた時、言ってたんだ」
「『カメラはその一瞬を切り取るに過ぎないかも知れないが、その一瞬に残る物語は永遠に残り続けるだろう』って、僕の物語はここで終るかもしれない、なら最後に見る光景を残しておきたいんだ」
その話を聞いてもなお、少年の皮肉めいた表情は変わらない。
「でも、その写真を見る人はいないかも知れないがねぇ」
「墓標だからいいんだよ、形に残しておけることが大事なんだから。それに」
「最後なんだ、家族写真くらい一緒にとってもいいじゃないか、ほらほら」
「俺としちゃあ御免さ、写真はどうにも好きになれん。魂を吸われるかもしれないからなぁ」
自撮りの要領で少年をフレームに入れて写真を撮ろうとするが、それに拒否反応を示すかの如く少女に背を向けて抵抗する。それを見て少女は口を尖らせて拗ねだし、再び風景を撮り始めようとした。
「ちぇ、またそんなこと言って、でも、もうお別れみたいだね」
少女の手が止まり、そのただならぬ様子に少年は一瞬戸惑ったが直ぐに状況を察した。
二人の耳にも届く程の騒音、死神の足音と呼ぶには不釣り合いな程それは明確な死の音だ。それでもなお二人の表情は変わらない。
「今までありがとう、“お兄ちゃん”。またね」
まるで友達と別れる時のように、そんな軽い挨拶を告げる。
「はは、最後までお前さんは変な“妹”だったよ。じゃあな、また――」
少年は再び煙草に火を着け、最後に一服。
その姿を写そうと少女は少年にカメラを向け、シャッターを切った。その瞬間だった。
その場に居た二人の姿も、呼吸も、その場に残っていた足跡も、煙草の残り香も、二人の会話さえ飲み込むように、吹雪は全てを白銀に塗り替えた。
きっとその写真を見る者は誰も居ないのかもしれない、もしかしたらカメラすら見つけてもらえないかも知れない。彼らの最期を写した写真、最後の景色を。
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