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第2章 出逢い
彼女、松下美穂と出逢ったのは今から7年前の春、もうすぐ桜も満開になる頃だった。大学をなんとか卒業し、大手旅行代理店に入社し1年が過ぎた頃で僕のアパートとの隣の部屋に越して来たのが美穂だった。その前は大学生らしき今時の若者で、夜な夜な仲間が集まりうるさくて迷惑していたので、引越した時は正直ほっとした。
「今度隣に住む事になりました。松下と申します。よろしくお願いします」挨拶に来た時、セミロングの髪を後ろに結んで屈託の無い笑顔を見せた美穂にとても好印象を受けた。
「元木と申します。こちらこそよろしくお願いします。困った事があったら遠慮なく言って下さいね」
当たり障りの無い受け答えをした事を覚えている。
「あぁ、あと何処か旅行する事がありましたら」
と言って名刺を渡すと
「凄いな、大手じゃないですか」
「まだ入社1年で下っ端ですけどね」
そんなやり取りをした記憶がある。
それからは、逢えば挨拶程度だったが、その年の暮れ、世間ではクリスマスの支度を始める頃だった、
ツアーからヘトヘトになって帰って来て部屋に入ろうとすると部屋の鍵がない。部屋の前であれこれ探していると、たまたま美穂が帰って来た。
困っている僕を見ると
「どうかしましたか?」と声を掛けてくれた。
「困りました、鍵が見つからないんです。落としたのかなぁ、会社に忘れるはずもないんだけど」
と言うと
「とりあえず、どうぞ」と自分の部屋に招く仕草をした。「嫌々、そう言う訳には」と言うと。
「困った時はお互い様でしょ、寒いですし」
「それに、一応男ですよ」
「元木さんはそう言う人ではないのわかりますから
大家さんに連絡して見ましょう」と天使の様な笑顔を見せる。その言葉に甘える事にした。
同じ部屋とは思えない程部屋は綺麗に整理されていた。コーヒーを入れてもらうと冷え切った体に染み渡る。大家が来るまで、色々な話をしたのだが緊張のあまり良く覚えていない。同じ4月生まれと言う事とイニシャルがお互いにM.Mだと言う事だけは覚えていて運命的な物を感じた記憶がある。
後日、僕はお礼にと言って食事に誘った。これを境に2人の仲は急速に発展する。1カ月過ぎた頃に交際を申し込んだ。美穂は心良く受け入れてくれた。
僕が24歳、美穂が19歳
歳があけたばかりの冬寒い頃だった。
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