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第4章 彼女の元へ
居眠りしたトラックが歩道の列に突っ込んだ。死者3人、重軽傷者多数。全国ニュースにもなった。
死者3人の中に美穂がいた。後から知った事だ。でもそんな事は僕にはどうでもよかった。美穂がもういない、その現実を受け入れる事がなによりも僕を苦しめた。
その頃の僕は魂の抜け殻の様で、誰の言葉も耳に入って来なかったんだ。母親、兄、友人、会社の人、あらゆる人が僕を心配して声をかけてくれた。
でも僕の心はもう壊れていた。
美穂に逢いたい。それだけだった。
涙も枯れ果てて、目を閉じると美穂が現れる。その繰り返し。
勤めていた会社も辞めた。
もう僕の人生は終わった。そう思っていた。
美穂の元に行こう、それしか考えられなかった。
思い出があり過ぎるこのアパートを出よう。
そう決心するのに1カ月かかった。
今にも美穂が逢いに来そうだったからだ。
部屋の整理をすると美穂との思い出の物ばかりが出て来る。それらはすべて美穂の両親の元へ送った。
ただ、美穂が飾ってくれた写真たての中の写真だけは処分出来なかった。2人のお気に入りの写真だ。
頬寄せあった笑顔のツーショット。それをカバンの奥に忍ばせた。
「美穂、もうすぐ逢いに行くよ」そう心の中で呟いた。
アパートの鍵をする。鍵を見ると出逢った頃を思い出す。「お互いのスペアーキー、交換しておこう」美穂の提案だった。「こうすれば、無くしても安心でしょ」と微笑む彼女。
あの頃にはもう戻れない。
さよならだ。
さあ行こう。死に場所探しの旅だ。
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