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第5章 出会い
「歳をとったら、2人で海の見える暖かい所に住みたいね」美穂の言葉を思い出していた。
海岸沿いを南へと向かう。あてなどない、ただ南へと向かう。途中何度か電車から海が見えると降りて海を見た。ただ砂浜にいき、ぼんやり海を眺めては、また南へと向かう。大阪を超えてさらに南へと向かう。1週間もたつと太平洋から瀬戸内海に変わっていた。結局、このまま本州から九州に行ってしまうと思い始めていた。
不思議な感覚だった。電車から海が見えた。そこに美穂がフラッシュバックした。導かれる様にその小さな駅に降り立った。古い建物もまだ残るその小さな町は懐かしささえ感じる。海に向かって歩き出すとすぐ香りが変わった。海岸沿いを少し歩いて、砂浜に行く。6月に入ったばかりだがこの辺りはもう暖かい。羽織っているシャツを脱ぎTシャツになった。
大きな流木に座ってただぼんやりと穏やかな海を眺める。空も果てしなく青い。
遠くに波と戯れる女性がいた。白いブラウスが風になびいている。白い帽子で顔が良く見えない。
帽子が風に飛ばされた。女性がこちらを見た。
まさか、美穂だ、微笑みながら僕に手を振る。
僕は立ち上がった。でも美穂は手振りながら遠ざかって行く。セピア色の情景、時がゆっくりと流れて行く。美穂の口元が動いた。波の音にかき消されて聞こえない。微笑みながらどんどん、どんどん遠くに行ってしまう。そして消えた。
僕はただ途方にくれていた。
波の音だけがただ聞こえるだけだ。
夢でも見ていたのか、我に帰ると、僕の隣に老婆が微笑みながら座っていた。全然気づかなかった。
そして老婆は僕を見て「省ちゃん、おかえり」と言った。僕の手を取り「省ちゃん、ちょっと疲れてるみたい、ゆっくりお休みしようね」と微笑みかけてくる。ちょっとボケているのだろうと思い、始めは戸惑ったが、次第に老婆の声が僕の心を癒し始めているような感覚がしてくる。
でも僕は省ちゃんでは無い。少し罪悪感もあったが
しばらく一緒にいてあげようと思い始めた。
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