第6章 動き出す心

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第6章 動き出す心

民宿うらしまの夕食は6時から7時まで、お風呂が6時半から8時までとなっている。僕は老婆と2人、向かい合わせで夕食をいただいた。めぐみが言っていただけに海の幸は新鮮で美味しかった。老婆がこの食堂で食べるのは初めてらしい。 「省ちゃん、美味しいね」相変わらず僕を省ちゃんと呼ぶ。本当の孫の様な気になってしまう。 「おばあちゃん、今日は良く食べるね」とめぐみが言う。「だって省ちゃんが帰って来たんだから、おばあちゃん、嬉しくて嬉しくて」 「いつもは、心配するほど少ししか口にしないんですよ、顔色もいいし、元木さんのおかげですね」 「とんでもない、僕も久しぶりに美味しい夕食を食べられて、感謝します」 「久しぶりだなんて、お世辞でも嬉しいです」 これは本心だった。あの日以来美味しいと言う感覚さえ失っていた。 その日はおばあちゃんが眠りにつくまで側にいた。 僕の手を握るしわしわの手。目を瞑りながら「明日も省ちゃん、海、行こうね」「うん、おやすみ、おばあちゃん」寝息を立てるおばあちゃんを見ながら 「ねえ、おばあちゃん、僕を助けてくれたの?」 「僕の明日もう来ないんだよ、ねえ、おばあちゃん 苦しいんだ、助けて下さい」 そう問いかけた。
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