ゲリラ鎮圧作戦 in 6年3組

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「止まった!来るぞアタロウッ!」  差江島(さえじま)伍長の暑苦しい声が、ヘッドセットを通して鼓膜に叩きつけられる。  わざわざ報告されなくてもセンサーとっくに熱反応を捉えているし、仮に敵戦車の500ミリ砲が直撃したところで、パワードスーツ「ヴァルド」のナノスキン装甲には、煤汚れすらつかないというのに。 「うるせえな差江島。下の名前で呼ぶんじゃねえよタコ……」  マイクをオフにしてひとりごちつつレバーを操作し、上体をひねることで飛来したオレンジ色の砲弾をかわす。背後に着弾。伍長の乗る装甲車に当たっちまえと思うが、距離が届かなかったらしい。差江島の声。 「位置が分かった!反撃!」 「了解」  テメェがガタガタ喚くから集中できねえんだよとうんざりしながら、俺は照準モニターを覗きこむ。 「(おい、ビータ!)」 「うるせえな」思わず小説の中と同じテンションで返してしまう。 「(バカ!教科書倒れてんぞ!)」 「んっ?」  隣の席のリアンから突っ込まれて、机の上で現在絶賛執筆中のオリジナルSFバトルノベル「火星のヴァルド」を、教壇の先生から隠すように立てていた算数の教科書が倒れていることに気付く。ぎくりとして周りを見るが、秋の陽が差しこむ並々小学校6年3組の教室には、差江島先生が読む帯分数の掛け算の説明が響くのみで、親友のリアン以外、誰一人こちらに気付いている様子はない。  僕はササッと教科書を立て直して、作品の制作に集中する。リアンが地毛の茶髪パーマを揺らして、「やれやれ」といった顔をしたのがチラっと見えたが、気にしない。  照準モニタに映るのは砲撃で穴だらけになった火星最大の双子ビル、ポンピナス・タワー。敵はその30階あたりを移動しながら攻撃してきているようだ。  ほどなくして、真っ赤に焼けた砲弾がビルの合間を飛来してきたと思うや、前方の廃墟の壁に一発。左50メートル前方の地面に、二発目が着弾した。  ドッ…ドン……!!!  モニターを真っ白に染めた閃光は、ゲインコントロールによって即座に修正される。伍長がわめいた。 「何してるアタロウッ! 早く迎撃せんかッ!!」 「いっそテメエを撃ったろか」  毒づいてからマイクをオンにして「了解」と返す。
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