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また、視線を足下に落してみれば、ここはあくまでも神奈備高校のボロっちい学生棟であって、けして華やかなハリウッドのコダック・シアターではないはずなのであるが、まるでアカデミー賞の会場か何かの如く鮮やかなレッドカーペットが床一面に敷かれ、薄暗い照明の中、一種の荘厳さと妖艶さを持って鮮やかに浮かんでいる。
「……部室なのにこのオシャレ度……さすが、高校の美術部は違うなぁ……」
「入部希望の方?」
そんな部室とは思えない、幽玄の世界に見とれていた真奈が声のした方に視線を向けると、闇に覆われた壁際には椅子が一つ置かれており、その英国アンティーク調の椅子に髪の長い女生徒が一人腰掛けている。
声からして、さっき返事をくれた人のようである。
「あ、は、はい。そうです」
「では、こちらに」
その女生徒は椅子から立ち上がると、目をパチクリさせる真奈の方へ音もなくゆっくりと歩いて来る……。
立ち上がった瞬間、彼女の長い黒髪が微かに揺れる。淡い蝋燭の光を反射して輝くそのカラスの濡れ羽色は、なんとも艶やかでその美しさに思わず目を奪われてしまう。
それまでは暗がりでよく見えなかったが、ようやく明かりの届く範囲に入って見えたその顔立ちも、涼やかな切れ長の瞳によく通った美しい鼻筋、これまた目を釘付けにされてしまうような造形美である。
長身の痩せ形ではあるが女性として出るとこはちゃんと出ており、歩く姿はまるでランウェイ上のモデルのようだ……いや、どっかの読モでもほんとにやってるんじゃないだろうか? もしやってなかったとしたら、それは日本のファッション業界にとって大きな損失である。
どんだけ美人っ?
あぁ、こんな綺麗な人が部活の先輩になるだなんて、やっぱ、美術部を選んでほんとよかったあ~……。
でも、こんなに美しすぎる先輩がいつもそばにいたら、あたし、なんだか変な気分になっちゃうかも……あぁ、ダメ、先輩。あたし、まだ、そっちの世界は早すぎるっていうかぁ……。
「こちらに来ていただけますか?」
「……あ、あ、あ! はい!」
その声に現実へと引き戻され、これからの理想的な学園生活にいきすぎた妄想を膨らましていた真奈は、慌てて円卓の奥に並べられている事務机の方へと向う。
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