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「では、この誓約書にサインをお願いします」
見ると、机の上には何かの文章が墨で書かれた一枚の和紙に、墨汁の入った硯と筆が添えられている。
誓約書? ……入部届けじゃないのかな?
真奈は小首を傾げながら、その和紙に書かれた文章を目で追ってみた。
照明が蝋燭の明かりだけなので、なかなかに読みづらい。
え~なになに……誓約書。私は当部に入部し、以後、神奈備高校に在学する限りにおいては当部の部員であり続けることをここに誓います……か。
なんかやけに仰々しい入部届けだな。それになんだろ? この絵は?
その紙の真ん中には、小さな鳥のようなものがいっぱい集まって、さらに大きな絵みたいなものを形作っている。
いったいなんの絵だろうか? 見ようによっては何かの文字を表しているようにも見えなくはない。
「さ、そこに署名をしてください」
美人の先輩が白く細っそりとした手で硯と筆の方を指し示しながら、落ち着いた声で真奈に署名を促す。
「あ、はい」
……ま、いいか。きっとこれもアートなんだ。入部届けにまで美を求めるなんて、さすが高校の美術部は違うなあ……。
わずかな逡巡の後、心の中でそう判断を下した真奈は、筆に墨をつけると、指定された場所に自身の名前を素直に書き入れる。
「……と。はい、これでいいですか?」
すると、美人の先輩はその紙を手に取り、蝋燭の明かりにかざして丹念に確認してから真奈に告げた。
「……うん。よいな。あーちなみに言っておくが、これは紀州は熊野大社に伝わる午王宝印を押した起請文というもので、ここに書いた誓いを破れば血反吐を吐いて死ぬと云われている。ゆめゆめ誓いに背くようなことはしないようにな」
「…………え?」
なんか今、ものすっごく物騒なこと言ってたような……ああ、そうか! きっと今のはこの先輩独特のブラックなギャグなんだ。
う~ん…どこがおもしろいんだかぜんぜんわかんないけど、やっぱりこういう時は後輩として、ちゃんとウケてあげなくちゃいけないんだろうなあ……。
「アハハハハハ。先輩、冗談がお上手ですね! アハハハ…」
考えた末、真奈はそんな認識を勝手にすると、無理にウケて爆笑してみせる。
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