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真奈は密かにそんな感想を抱きつつ、ペコリとその相浄なる男子に頭を下げる。
「あ、あの、宮本真奈です。よろしくお願いします」
「ん、ああ。よろしくな………」
対して相浄は照れ隠しにか、顔も向けずにぶっきらぼうな態度で返事を返した。
「そういえば、清彦はどうした?」
「清彦なら調べ物がアル言って図書館行たヨ」
梨莉花が先輩部員二人に尋ねると、梅香の方がちょっとおかしなイントネーションでそれに答える。
「とすると、また何か研究を始めたか。相変わらず研究熱心なやつだ」
研究? ……図書館で調べ物っていうと、美術史でも研究してる人なのかな?
「あ、それデ思い出したケド、飯綱先輩ハまだ帰ってきてないノ?」
今の会話からその新たに登場した人物の人となりを想像する真奈を他所に、今度は梅香が梨莉花に訊き返す。
「ああ、まだ山に行ったままだ。家族の人の話によると、月曜には帰って来ると言い残して行ったようだが」
山というと、きっと山の絵を描きにでも行ったのだろう。遠くの山だろうか? 富士山か日本アルプスか、それとも、もしかしたら海外?
長期休みを利用してスケッチ旅行に行くだなんて、なんと本格的な!
それに前衛アートの人がいるかと思えば、美術史を研究しているようなインテリ肌の人もいて、おまけにフォーリナーな部員なんかもいたりして、ナビ高の美術部は幅広い分野の活動をしているばかりか、何気に国際色も豊かなアブソルートリーにスゴイとこである!
なんか、これからの部活がもっともっと楽しみになってきた! ほんと、神奈備高校を選んでよかった~って感じ! ああ、神さま、あたくしめをこんなステキな部に導いてくださったことに感謝します……。
真奈は希望の光に満ち溢れたこれからの学園生活を再び妄想し、その幸せすぎて怖い未来の光景に酔いしれる。
斜め上を見つめるその瞳は、まるで古き良き時代の少女漫画のようにキラキラと輝いている。
そんな陶酔しきった真奈の方を横目で覗っていた相浄が、呆れたようにぽつりと呟いた。
「しっかし、〝うち〟に入りたいなんて、よっぽどの物好きだな――」
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