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一方、その頃……。
朋絵はというと、〝美術部〟の部室で先輩達とガールズトークに花を咲かせていた。
「――アハハハハハ、そうなんですか?」
「そうそう。あの教頭がよ? マジウケるでしょ?」
……ふう。それにしても遅いな、まーな。どうしちゃったんだろ?
「アハハ…ん? どうかしたの? 桜井さん」
先程から何か落ち着かない様子でいる朋絵に気付いた一人の先輩が、訝しげな顔で声をかける。
「あ、いえ。まーな…その一緒に来るはずだった友達なんですけど、ちょっと遅すぎるなと思いまして……もしかして、間違えてどっか他の部のとこ行っちゃったのかな?」
「まっさかぁ。その子、美術部の部室が一階の一番奥にあるって知ってるんでしょう? だったら、学生棟に入って廊下を真っ直ぐなんだから、どう間違えようったって間違うことなんて…」
「はっ! もしかしたら……」
心配性にも程がある朋絵に手をひらひらと振り、そのありえない間違えを笑い飛ばす先輩だったが、彼女の言いかけた言葉を遮り、突然、別の先輩が何かを思い出したかのように顔を強張らせる。
「もしかしたら……何?」
「となりだよ。と・な・り……」
「となり? ……ああっ!」
すると、笑っていた先輩もすぐに言わんとしていることを理解したらしく、すっかり忘れていたというように声を上げる。
「……となりって、なんのことですか?」
ただ独り、朋絵だけは何を言っているのかさっぱりわからず、小首を傾げて先輩達の顔を交互に見回すことしかできなかった。
「ああ、となりの部屋を使ってる部なんだけどね。うちの部と名前が一字違いなのよ――」
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