壱 美術部 NEXT TO THE DOOR(3)

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「――一字違いっていうと?」 「ほら、うちは美術部でしょ。んでもって、となりの部屋使ってるのが呪術部ってとこなの。何やってんだかよくわからない怪しいとこなんだけどね、これがよく見ると、うちと名前が〝美〟と〝呪〟の一文字違うだけなんだよねぇ。おまけにそれが、偶然にも部室がとなり同士だなんて。だからね、冗談でうちととなりを間違えて入っちゃう人もいるんじゃないかなんて言ってるの。まあ、まさか本当に間違える間抜けはいないと思うけどね」 「……まさか……まさかね………いや、まーなならありうる!」 「さ、桜井さん?」  朋絵は慌てて席を立つと急いで背後のドアを開き、そのままの勢いで廊下へと走り出た。 その剣幕に、先輩達もお互いに顔を見合わせると朋絵の後を追う――。 「――えっ? で、でも、ドアにはちゃんと美術部って……字が擦れてて読み辛かったけど……って、まさかっ!」  真奈はそこへきてようやくある可能性に気が付くと、そのことが真実かどうかを確認すべく、急いで廊下へと向った。  バダン…!  二つのとなり合った部屋のドアが大きな音を立てて開き、二人の人物が廊下へ飛び出して来るのは同時だった。 「まーな………」 「朋絵………」  真奈と朋絵はそのままの格好で動きを止め、お互いに顔を見合わせる。  朋絵は唖然とした表情で真奈のことを見つめている……真奈の方も、しばしじっと親友の顔に見入っていたが、ふと思い出したかのようにドアの表札へと視線を移す。 「うーん……」 やはり文字が擦れていて読みづらい……だが、よく見れば読めないほどのものでもない。 「…………あ、呪術部だ」  目を細め、しばし表札を注視していた真奈が間の抜けた声で呟いた。と、時を同じくして二人の後を追い、各々の部室から先輩達もどやどやと廊下に姿を現す。 「桜井さん、その子がまさか………」  ドアの前に立ち尽くす真奈の姿を見て、美術部の先輩がそのまさかの是非をおそるおそる朋絵に尋ねる。 「あ~まだやってない。梅香、表札の字を書き直しとくように言っておいただろう?」  梨莉花は擦れて読みづらくなっている表札を目にすると顔をしかめ、同じく廊下に出て来た梅香に文句をつける。 「あ、ゴメンナサーイ。今日やろうと思てたとこだヨ」
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