壱 美術部 NEXT TO THE DOOR(1)

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 ――キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。 「え~皆さん、どうも始めまして。僕が今日からこの一年A組を担任する渋沢敬一郎(しぶさわけいいちろう)と言います」  入学式を終えた後、ウェストミンスターのチャイムとともに始まった初のホームルームで、タン、タン…とチョークの乾いた音をリズミカルに響かせながら、彼女達のクラスの担任となるその教師は黒板に自分の名前をデカデカと書き記す。 「ということで、三年間、皆さんと苦楽を伴にするわけなんで、どうぞよろしく」  そう断りを入れ、白い歯をキラリと光らせた渋沢と名乗るその教師は、見たところ歳は20代の半ばくらい。体格は細マッチョ系、爽やかな短髪に丸メガネをかけている。  レンズの奥で細められた目はなんとも優しいイイ人そうであるが、緩めたネクタイと開いた襟元に、そこはかとなく危険な男の色気を感じる。  ……なんというか……〝腐った〟ネタにはもってこいのタイプだなあ……ショタ生徒との禁断の恋って感じで…… 「――せ、先生、だ、だめですよ。僕達は生徒と教師の間柄だし……」 「いいんだよ。今夜だけは教師でも生徒でもない。僕らは恋人通しさ――」  ――キャーっ! 先生と教え子でそんなぁぁぁー! ……っと、いけない。いけない。また勝手な妄想をしてしまった……あ、涎が……。  そうして新しい担任教師をうっとりと見つめながら、極めて主観的で腐女子的な脳内妄想をして盛り上っている先程のオカッパ頭の少女……。  少女の名前は宮本真奈(みやもとまな)、15歳。友人達は呼びやすいためか、「ま」を伸ばして〝まーな〟と呼ぶ。  そんな少々妄想癖の気がある彼女は、今日からこの神奈備かんなび高校――通称〝ナビ高〟の一年生なのだ。  去年までのセーラーとは違う紺のブレザーの制服。新しい友達。カッコイイ先輩。楽しい部活動。そして、甘く切ない恋……。  加えて小学校の頃からの大親友・桜井朋絵(さくらいともえ)とも同じクラスになれて、これから始まる新たな学園生活への期待(妄想ともいう…)に、真奈の期待はいやがおうにも高まっていた。
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