壱 美術部 NEXT TO THE DOOR(1)

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 そして、その日の日程をすべて終えての放課後……。 「――美術部の部室って、一階の一番奥だったよね?」 「うん。チラシにはそう書いてあったと思うよ」  真奈と朋絵は二人して、部室やら生徒会の会議室やらが集まっている学生棟と呼ばれる古びたコンクリの建物へと足を運 んでいた。  彼女達以外にも、周囲には同じような新入生の姿がちらほらと見られる……皆、お目当ての部へ入部の手続きをしに来た連中であろう。  高校生活で勉強とともに最も重要なもの…いや、人によってはそれ以上に重大事なこと……それは部活動である。  どの部に入るか? それを決めることも、新入生が入学して一番初めにしなければならない優先事項なのだ。  それは、部活をしない生徒までをも〝帰宅部〟と、まるで一つの部活動であるかのように呼び称することからも覗えよう。  いずれにしろ入学式当日は、上級生の側にとっても部の存亡をかけて新入部員を一人でも多く獲得せねばならない重要な日であり、自分達は休日であるにも関わらず、わざわざ朝から出てきて校門付近で勧誘のためのビラ配りをしたり、吹奏楽部や軽音部などは新入生歓迎のために特別演奏を行ったりする。  対して新入生の方はといえば、この日の放課後より各部の活動しているところを見回って品定めをしたり、一方、すでにどの部に入るかを固く心に決めている者達は早々と、その部へ出向いて入部の手続きをすませてしまうだ。  真奈達二人はというと、後者の方だった。  真奈は絵を描くことがとても好きである。  別に絵を描くのが頭抜けてうまいとかそういうわけでもないが、小さい頃から絵を描くことが無性に好きなのだ。  絵を描くだけでなく、絵や他の美術品を見るのも好きだ。朋絵と親しくなったのも、同じく彼女も美術鑑賞が好きであり、そうしたことでお互い気が合ったからというところが大きい。  そんな二人は中学時代に美術部であったこともあり、高校でも二人して美術部に入ろうと以前から約束していたのである。 「……じゃ、行こうか」  昭和な香りのするレトロな学生棟の玄関を入った所で、朋絵が意を決したように言った。 「……うん」  真奈は相槌を打つと、朋絵とともに建物の奥へと一階の廊下を歩み始める。
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