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校内のあちこちに張られていた勧誘のチラシによると、美術部の活動はもちろん美術室で行っているのであるが、部活時間外は学生棟にある部室にいることも多いので、その場合、入部希望者はそちらへ来てほしいとのことだったのだ。
所々、壁にヒビの入った古く薄暗い学生棟の廊下を、目的の場所目指して二人は黙々と進んで行く……。
「あ、そうだ!」
だが、そうして廊下の真ん中辺りにまで来た時、そこにあったトイレに真奈はちょっと寄って行きたくなった。
ただ入部届けを出すだけなのであるが、それでもやはり緊張しているらしい。
「朋絵。わたし、ちょっとお手洗いに寄ってくから、先行っててくれる?」
「あ、うん。わかった。じゃ、先に行って部室の場所確かめとくね」
「うん。お願い。すぐ行くから」
そう告げてトイレの中へと消える真奈を残し、朋絵は独り、そのまま建物の奥へと再び足を向ける。
美術部の部室はその廊下に面して横一列に並ぶ各部の部室の〝一番奥にある〟部屋である。
「美術部……よし、ここで間違いないな」
朋絵はその部屋の前で立ち止まり、錆びた鉄製のドアの上にかけられた「美術部」という表札を確認してから大きく頷く。
ガチャン…。
と、その時。不意に目の前のドアが予告なしに開いた。
「あ、やっぱり来てた!」
そして、中からは上級生と思しき目をキラキラと輝かせた一人の女生徒が現れ、朋絵を見るなり話しかけてくる。
前髪ぱっつんに三つ編みのおさげをした、いかにも美術部っぽい素朴な感じの先輩だ。
「あなた、美術部入部志望の人?」
「あ、は、はい。そうですけど……」
予期せぬ先輩の登場に、朋絵は少々戸惑いながら首を縦に振る。
「じゃ、入って! 入って!」
「あ、いえ。一緒に入部することにした友達がもうすぐ来るんで待ってないと……」
「あ、そうなんだ! 一度に二人も来てくれるなんて余計にうれしいな。でも、そんな所じゃなんだから中に入って待ってなよ」
部室に入るよう勧められ、朋絵は真奈の到着を待とうと説明するが、それでも先輩は親切に彼女を中へと誘う。
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