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「そうでした。矢代先輩、桐生先輩が怒ってますよ」
「お前、それ早く言えよ。俺とコイツ、呼びに来たのか?」
「それもありますけど、一番は青井さんに会いたかったからです」
「サラッと、んなこと言いやがって!」
まさか佐藤くんからそんな言葉を聞けるとは思わなくて、キョンは極端にうろたえていたけれど、私の時は一瞬止まっていた。
「それくらいでそんな反応するの矢代先輩くらいですよ。おい、恵。起きろって」
恥ずかしがるキョンに、冷静な佐藤くん。
正反対な二人が会話しているのは目の当たりにして、不思議な気分だ。
私にとって特別な二人。
キョンも大切だけど、佐藤くんとは違う感情。
どっちも大切なのには変わりはない。
「次、恵の番だから急がないと」
「はぁい」
佐藤くんの声だけで反応して起きる恵くん。
虚ろな目で立ち上がると、佐藤くんの背後に立ち、寄り掛かる。
そのままの状態で、佐藤くんは少ししゃがむと恵くんをおんぶし出した。
恵くんも躊躇せず、背中に乗る。
驚いているのは私だけで、キョンも佐藤くんも恵くんも至って普通。
この光景は、男子陸上部の人間からすれば当然なのだろうか。
練習風景しか見たことがない私にとって、恵くんがこんなに寝起きが悪いこともそもそも知らなかった。
「また後で連絡します。ココにいますか?」
「多分移動してると思う」
「わかりました」
恵くんを背中に背負ったまま、私に背を向け、去っていく後ろ姿。
また後で見ることにならないだろうか。
唇を噛み締め、掌をグッと握りしめる。
「あ、待てよ!じゃあな、青井。気になるから…夜電話する!」
「キョンは気にする必要なし。でも、ちゃんと報告するから」
佐藤くんの後を追いながら後ろ向きで手を振るキョンに、手を振り返しながら見送る。
どっちが先輩で後輩なのかわからない二人がいなくなったこの場所。
妙に寂しく感じるのは気のせいだろうか。
目を閉じれば、沸き上がる歓声が聞こえる。
息を吐くと、暑さを忘れていた自分に気がついた。
力が抜け、その場に寝転がると、天を見る。
木の枝々の間から、澄み切った空がキレイに晴れ渡っていた。
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