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誰もいないはずの屋上で物音がしたあの時、物音の正体はキョンの手から地面に落ちた購買のパンだった。 迷いもなくキョンのそばに駆け寄って、落としたパンを拾った。 そして、私の口から自然と発された言葉は、弁解でもなく、誤魔化すわけでもなく、前の日に受けた告白の返事でもなく― 「今のこと、誰かに言ってみろ・・・昨日私に告ったことバラすから」 ―脅しだった。 キョンがわざと誰にも見つからないところで告白してきたのは目に見えてたし、私以外誰もいないはずの屋上で返事をもらおうとして、跡をつけてきたのを一瞬に嗅ぎつけた上での脅しだった。 それから、なんでこうやって一緒にいる気になったのかは意味不明なトコ。 「まぁ、勘弁して」 キョンのいちごオレを奪うと、一気に飲み干した。 「お前っ」 「何?文句あるわけ?」 「・・・ない」 「間接キスなら気にすんな」 「んなこと言ってねぇ!」 「顔に書いてるもん」 慌てて顔を覆うキョンにお腹を抱えて、思いっきり笑う。痛くて、呼吸困難になるくらい。 このバカ正直で可愛いところは、女の私が見習わなくちゃいけないトコロ。 「つーかよ、俺も質問していっか?」 「どうぞ」 「なんで佐藤の前で猫被んだ?絶対素の方がいいと思うぜ」 まだ笑いの余韻に浸る私に嬉しいことを言ってくれるキョン。 それに水をさすようにチャイムが鳴った。 二時限目の終了。 三時限目は確か私の好きな漢文だったはずだ。 「せっかく二回目の告白してくれてる中悪いんだけど、次の授業遅れたくないから先行くね」 「はぁ?告白なんてしてねぇよ!ちょっ、青井!」 「じゃ、いつも通り誰にも見つからないように気をつけてねー。あ、時間差もお忘れなく」 「おー。ってか、答えてから行けよ」 私の背中にそう吐き捨てるキョンに返事はせず、屋上をあとにした。 素の自分だったら、今の私は佐藤くんと付き合えてない。 佐藤くんの前では、佐藤くん専用に三年間をかけて作り上げた私なんだから上手くいってるんだ。 もう、他の人と付き合えても意味がない。 佐藤くん以外だなんて、そんなの絶対に嫌だ。 素がバレることで、また片思いになっても、絶対に嫌。 少し自分に我慢をさせて、佐藤くんと付き合えるなら、私は一生我慢する方を選ぶ。 楽に生きようなんて、考えは嫌いだ。
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