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「キョン」 「青井、」 「いきなり走らせて・・・わかってんの?」 話を切り出される前に注意。朝からダッシュさせられるなんて信じられない。 引っ張られていたから楽、とかの問題じゃない。 体力の違いは把握しといてほしい。 だいたい現役の陸上部部員のペースについていけるわけがない。 「ごめん」 しまった、と言わんばかりの表情で謝るキョンの頭を撫でる。 「まぁ、慌ててくれるキョンの気持ちは嬉しいけど」 そう言った途端パァッって効果音付きそうなくらい笑顔になるキョン。 単純、そこがキョンの良いトコロ。 「で、何?」 「何、じゃねぇよ!」 「青井がいつも話しかけるなって、言って」 「もういいの。やめたの。これからは普通の生活するから。すぐには無理だろうけど」 卒業するまでの残り半年間、それでも時間は足りないかもしれない。 けれど、自分を偽るのはやめた。 不必要となった今、息苦しいし見苦しいだけだ。 「それって、佐藤のおかげかよ」 「それしかないよ」 ガシャンッと大きく音を立てた金網が、寄り掛かる私を受け止める。 少し見上げれば、空は快晴で白に近い色をしている。 まだ半袖で十分な気候。 夏休みの間になんとなく治った痣は、シャツの上から完全にわからなくなっている。 「ホントに佐藤のこと、好きなんだな」 「今更何言ってんの。当然でしょ」 ガシャンッと再度大きく音を立て、身体全体に振動がくる。 一瞬驚いて、何が起こったのかわからなかったけど、反射的に目を瞑ったのは確かだ。 現に、今ゆっくり目を開いている。 こうなったのは、勢い良くキョンが私の顔を挟むようにして、金網に両手をついたせいだ。 私の顔に影を作るキョンの顔をしっかり見つめ、黙って言葉を待つ。
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