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「矢代先輩、残念ですが青井さんを譲る気はありませんので」
「佐藤・・・なんで、ココに?」
「あれだけ派手に目の前を駆け抜けられれば、誰だってわかります」
気づかなかった。
いつのまに佐藤くんの前を・・・って、そういえばココで会うのは初めてだ。
「とにかく、二人とも離れて下さい」
またしても佐藤くんの口から言わせてしまった台詞。
キョンは無言で、私の傍から離れる。
ガシャンッと何度目かの金網の音が屋上に響く。
キョンの小さくて男らしい背中が私に向けられる。
「佐藤、わりぃな。青井に急いで話したいことあったんだ」
「謝るくらいなら始めからしないで下さい」
冷たい言い方は、無表情の佐藤くんが内心怒っていることを伝える。
「悪い、佐藤。だけど俺、青井を好きなのはやめねぇから」
「宣誓布告ですか?」
「そう、なんじゃねぇの?だいたい俺の方が青井のことよく知ってるしよ」
「随分強気ですね」
フッと鼻で笑った佐藤くんはなんだかとても余裕で、珍しく強気に出るキョンの表情は、私の位置から見えない。
妙な空気が私達を包み、この場にいたいような、いたくないような・・・嬉しいような、複雑なような・・・気分にさせる。
ココで私が口を出すのはえげつない、と思った時点でコレに当てはまるのだけど。
「まぁな。んじゃ、言いたいこと言ったし、先戻るわ」
本当に言いたいことを言うだけ言って、サッサと屋上から出ていくキョン。
バタンッという少し古びたドアが風の力を借りて、勢い良く閉まった。
キョンが深く何かを考えて行動しているとは思えないけれど・・・何なんだろう、この胸騒ぎは。
嫌な予感がする。
今日から気持ちを新たにって新入生の気分だったけど、気分はあくまで気分。
そう簡単に何でも上手くいくはずがない。
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