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最後の質問は、居たたまれなくなって茶化すための質問だったが、それすら沈黙で返されて、彩斗はいよいよ困惑し出す。 おい冗談だから突っ込めよ、と言おうとした時、ようやく拓也が口を開いた。 「……彩斗、悪いけど後ろの棚から虫ピン取ってくれない?その赤い箱」 「あ、ああ……」 拓也が言葉を発したことに安堵しつつ背を向けると、後ろから腰を力強く抱きすくめられ、口元に布が押し付けられる。 エーテルの臭いと共に目眩がし、膝がガクッと折れた。 「うっ!?……くっ……」 朦朧として動けない彩斗を、拓也はベッドの上に恭しく横たえ、タオルで彩斗の両手をベッドヘッドのパイプに縛り付けた。 標本を作るときみたいに優しい手付きだった。 「……な……に、すん、だよ……」 「……俺の気も、知らないで……」 彩斗は“それ、俺のセリフ”と軽口を叩く余裕も無かった。 それはエーテルのせいではなく、拓也が今にも泣きそうな顔をしていたからだ。
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