置いて行かれた子供

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 ああ、君はダメだ、足を怪我しているからね。そう言って、男は僕に光る紙を取り出して一枚だけくれた。 「ほら、これをあげるから」  キラキラ光る正方形の紙。僕が触れると、触れた部分がぽわっと明るく光る。一瞬その美しさに目を奪われている隙に、男は弟を連れて去って行ってしまった。弟は声もあげずに去って行った。  あわてて追いかけても、足が痛くて走れない。男の吹く笛の音を頼りに怪我をした足を引きずりながら、瓦礫の中を歩く。力なく横たわる大人や、俯いて歩く人たちをかき分けるように進み、弟の名前を呼んでも、答える声はあがらなかった。  瓦礫の中を空腹のままさ迷っていた僕を、母が見つけてくれた。  弟がいなくなったと泣くと、母はお前のせいじゃない、お前のせいじゃないからと言って僕を抱き寄せた。  違う、弟は川へ落ちたんじゃない、あの男と、赤と黄と緑のまだら服の男と一緒に行ってしまったんだ。そこに行けば、食べ物もあって、爆弾が落ちてきたりもしないって。僕らはお母さんを置いてそこへ行こうとしていたんだ。大人は連れていけないから、子供だけだからと。  手に握った輝く紙をどこで手に入れたか、母は尋ねはしなかった。  弟は居なくなり、僕の手には折り紙だけが残った。
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