いなくなったおじいちゃん

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 頼羅が三年生になったあたりから、祖父は直近の事をよく忘れるようになった。認知症という事で、夕暮れ時になると家に帰りたくなったり、車を停めた場所を忘れてしまったりするようになり、危ないからと言って廃車にしたはずの車が見当たらないと言ったりもする。廃車にしたという事実を忘れてしまうのだ。  いつもは、昔のままの気のいい祖父なのに、頼羅の発表会に来て、ピアノを弾く頼羅を見ても、帰る頃には何をしに来たのか忘れている。以前であれば、上手に弾けたね、などと声をかけてくれていたけれど、今では『弾いたこと』そのものを忘れてしまうのだ。そのくせ、昔の、頼羅が保育園の時の事ははっきり覚えている様子を見せて、頼羅を保育園に迎えに行かないと、と言い出したりする。  頼羅達のマンションに遊びに来ても、日が暮れる頃になると、しきりに家に帰らなくてはと言い出すので、恒例だった年越しも辞める事になった。今年の紅白歌合戦は、頼羅は家族三人で見ることになるのだろう。  けれど、夕方、家にいるのにどこかへ行こうとするのは初めてだった。
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