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「昨日も来てたね」
思い切って声を掛けると、その子はコクンと頷いた。
不思議な子だ。歳はたぶん同じぐらい。
この辺の子じゃない。そう思ったのは、その肌の白さのせいだ。
「どこから来たの?」
優しく訊いたのは、その子が女の子かもしれないから。男か女かもわからない。
「あっち」
その子が指さしたのは海の向こう。
整った顔立ちは外国人のようにも見える。アメリカから来たってこと? それとも……。
「何か探してるの?」
昨日もその子はテトラポットの間を見て回っていた。
「うん。すごく大事な物。それがないと帰れないんだ」
その子の声は不思議な声で、頭に直接響くような気がする。声に高さがないから、男か女かわからないままだ。
「もうすぐ日が沈むから急がないと。一緒に探してあげようか?」
「ホント? ありがとう!」
その子は嬉しそうに笑った。その顔が眩しくてドキッとした。
「こういうのを探してるんだ」
絵や写真を見せられたわけでもないのに、その子の探し物の形が伝わってきた。六角形の金属の板。読めない文字が彫ってある。
「鍵?」
ふと思いついて尋ねると、その子はまた嬉しそうに頷いた。
「あった!」
鍵を見つけて大声で叫ぶと、その子が駆け寄ってきた。
「良かったね!」
嬉しくて思わず抱きつくと、その子もギュッと抱きしめてくれた。
炎天下の探し物で汗だくになった自分とは違って、その子の身体はひんやりとしていた。
「帰っちゃうんだよね?」
離れたくないと思った。でも、引き留めることは出来ない。その子がこの辺の子じゃないのはわかっているから。
「僕も君と一緒にいたい。君はとても綺麗な心で僕を受け入れてくれたから」
心が通じ合ったことが嬉しかった。
あ、『僕』ってことは男なのかな? どっちでもいいけど。
触れ合ったのは指先。
温かいモノが心と身体に流れ込む。
その時、海から不思議な音が聞こえてきた。
「もう行くけど、君たちを必ず迎えに来る」
切ない笑顔を残して、その子は海へと帰って行った。
***
――あれから8年。彼の蒔いた種がようやく芽を出した。
きっと迎えに来てくれる。
臨月の大きなお腹をさすりながら、私は海を見つめて彼を待っている。
END
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