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雨の街で傘も差さず、冷たさを感じながらも私は水気ばかりの道を散策する。
この街には草花が無い。唯一あるとするならば、街角の彼方此方に咲く蒼い彼岸花のみだ。
その花のみが、この雨が降り止まぬ街で咲き誇っている。
しかし、誰もその花について知り得る者は居なかった。手向けの花か、それともただただ咲く花なのかすらも。
私は歩き続けた。
今や照らさぬ街灯、壊れた車が路上駐車する車道、雨水が滴る窓ガラス、どこまで歩いても景色は変わらない。
私はふと、男性が好むような服が並ぶそこまで大きくはない服屋に入った。
薄暗く、静寂に閉ざされた服屋だった。かつては繁盛していただろう形跡がそこら彼処に見える。
ふと、気になった服に手を伸ばした。ただただ気になったのだ。深い理由は無い。
後もう少しで触れる。その瞬間、蒼い粉塵が服の内より現れ、服屋の中に拡がった。
まるでそれは、久しく見ていなかった夜空の星の如く。待つのみでは決して現れなかった絶景を、私は瞳の奥に刻み込む。
しかし、その絶景はすぐに消えてしまう。一時の夢の如く、忽然と。
もっと見ていたい、その無念から肩を落とし、視線を下ろすとそれはあった。
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