見上げた空には太陽が

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 視界に映るのは空の青だけ。ふわっと身体が浮き上がり、重力から解き放たれる。大きく開いた右脚は、隣のビルの屋上へと真っ直ぐ伸びていた。  その時、突風が吹き、身体がぐらりと揺れる。  空が、ガクンと落ちた。  しまった……と思った時にはもう、遅かった。 『美央!!』  背後から焦りを含んだメンバーたちの声が聞こえてきた。  右足を屋上の縁にギリギリ引っかけたものの、バランスを崩した身体を支えることは出来なかった。先ほどとは真逆に、押さえつけられるようにして重力がのし掛かってくる。 「ック」  短い髪が一気に上空へ舞い上がり、身体は引き摺り下ろされるようにグイグイ落ちていく。  いつもの美央なら、突起のある部分を探して掴んだり、壁を蹴ったり、回転して受け身をとったりして、落下の衝撃をなるべく軽くする対応が出来た。  だが今の美央はただ、落ちるがまま。パニックで頭が真っ白になり、思考機能が完全に停止していた。指先ひとつ、動かすことが出来なかった。  視界に映るのは、遠くなっていく、抜けるように美しい青空だった。
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