4人が本棚に入れています
本棚に追加
私の名前は高橋小春。訳あって『幻橋庵』という茶房で、泊まり込みのバイトとして働いている。
左門さんというのは『幻橋庵』の店主の一人。
年齢は二十代くらいに見えるけれど、どんなアヤカシを見ても全く動じないところを見ると、もしかしたらもっと上かもしれない。
「何を言うかと思えば。当然人間であり、客人だ」
意志の強そうなキリッとした眉に、吊り上がった瞳。端正な顔立ちだけれど、目つきの悪さとぶっきらぼうな口調のせいで近寄りがたい印象を与える。
けれど機嫌が悪い訳じゃなくて、これが素の表情なんだよね。
「見てわからんか、チビ春よ」
左門さんは何故か私を「小春」じゃなくて「チビ春」と呼ぶ。
私は「小春です」と訂正しながら話を続けるけれど、正しく呼んでくれる日は果たして来るんだろうか。
「いや、人間かもとは思ったんですが……連れてるのが左門さんだったので」
「なんと、俺のせいか。まあ、アヤカシとつるむ事が多いといえば多いが……」
「ですです」
こくこくと頷くと、後ろから柔らかい笑い声が聞こえてくる。
振り返ればお婆さんが微笑んでこちらを見ていた。穏やかな日々を積み重ねたような目尻のシワが更に深くなる。
最初のコメントを投稿しよう!