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繋がる空
アヤカシ、妖怪、化生に物の怪。それらは人の世に現れるお化けの類。
映画にドラマ、小説に漫画、伝承や噂話……彼等はあらゆる『物語』に現れては、私達を怖がらせたり楽しませたりする。
ならば私のこの日々も、いつか『物語』の一部に組み込まれる日が来るのだろうか。
これからお話するのは、とある茶房で過ごした日々。
一見すると小さな二階建ての日本家屋。けれど東には人の世に繋がる橋を持ち、西にはアヤカシの世に繋がる橋を持つという、一風変わったお店。
その名を『幻橋庵』という。
「すっかり涼しくなったなぁ……」
夕日に照らされた列車が遠ざかっていく。秋の気配が近付く茜色の空を見上げながら、私はぼんやり呟いた。
降り立った駅のホームに人の姿はない。私と同じ高校生の利用者も数名いるはずだけれど、部活動に関わっていない私とは利用する時間帯が違うから、詳しくは分からない。
無人の小さな駅舎には夕日が差し込んでいて、それだけで物悲しい気持ちになる。
人恋しい秋とはよく言ったものだ。
しみじみしながら駅舎を出たけれど、秋に浸れるのはここまでだった。
「おお、今帰りか」
「あ、はいっ。て、えええ……」
とても見覚えのある男の人が、荷車を引いて目の前を通り過ぎたから。
木製の荷車の上には米袋やダンボールに入った野菜……そして、
「こんばんは」
優しく微笑むおばあさんが、積まれていた。
「あっ、こんばんは……じゃなくて左門さん!そのおばあさんは人っ?人ですかっ!?」
がらがらがらと家路を急ぐ荷車を追って、私は慌てて駆け出した。
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