ナチュラル

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この店には昼と夜の二度来る日もある。 店の奥の白い壁にはプロジェクターで映し出される色の薄い映像が流れていて、今日もそれは『ナチュラル』だった。 この店の名は「ナチュラル」と言う。 この店主の老人がこの映画の『ナチュラル』が好きで、この映画を流す為に始めた店と言っても過言ではない。 一九八四年のアメリカ映画で、天才スラッガーのゲスな半生を描いた映画なのだが、どうしても憎めないストーリーになっている。 この老人もかつて天才スラッガーだったのか、ゲスな半生だったのか、共鳴するところでもあったのだろう。 「女はその身体から息子を産み、男はその生き様で息子を生む…か」 そのナチュラルのラストシーンを見ながら俺は呟いた。 「何それ…。ちょっと女を蔑んでない…」 未和子は水を飲みながら言う。 「どうなんだろうな…。この監督にでも聞かないとわからないな…」 俺はタバコを揉み消した。 老人がパンの入った籐の籠を持ってやって来た。
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