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そして皆の生み出す音色の輪から外れた教室の隅には、ぽつんとひとり、端座する女の子の姿があった。次から次へとカラフルな音符が生まれては消えゆくものだから、その子はいつまでたってもフルートの練習を始められずにいた。
――音色は心を映しているっていったら、やっぱりみんな、あたしのことをおかしいと思うかな?
その子の名前は「花宮 はるか」。
はるかが個性豊かな音色を眺めていると、ふと気まぐれを起こした新緑色の音符がはるかの目の前にこぼれ落ちてきた。
はるかはそっと右手の人差し指を立てる。いけないことだとは分かっていても、ついつい好奇心が先立ってしまい、そろりと音符に手を伸ばす。あたりを見渡し誰も自分のことを気にしていないと確認したところで、立てた人差し指の先で音符をタップする。
――チリン――。
繊細な硝子細工を砕いたような鋭い音が響き、新緑の光の粒がパッと散った。若草の匂いが辺りに舞う。
はるかはその音色を感じ取り、たまらずくすっと笑みをこぼす。
――南野先輩、何かいいことあったのかな? メロディーがウキウキしている。
オレンジとトパーズの音符たちも、立て続けにはるかの視界に流れ込んできた。指先を掲げそっと触れるとそれらの音符もたやすく弾けた。
――シャリン――。
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