いつだって音色は

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 ――北川先輩はなんだか元気なさそう。いつもより音が沈んでいる。昼間、先生に怒られたのかな? それとも誰かと喧嘩でもしたのかな?  ――パリン――。  ――あはっ、菜摘はいつにもまして、高円寺先輩に首ったけみたい。恋する乙女のオーラが全開ね。先輩の横顔を見てときめく鼓動があたしにまで聞こえてきそう。  はるかは両膝を綺麗に揃えて、膝の上に練習するはずのフルートを置いたまま、宙を舞う音符を飽きもせず眺め続けている。ミディアムボブの黒髪がさらりと捲れると、目を細めて笑みを浮かべるふっくらほっぺの横顔があらわになった。  はるかの世界はいつだってカラフルな音色に満たされていた。音符はみんな、はるかにとっては一瞬の、けれども大切な友達だ。   物心ついた時から音色が見えていた。そして楽器から放たれる音色、つまり生の音楽だけが音符の姿をなしていた。ときに誰かが生み出した生活音もまた、音楽と違わず音符となって宙を舞っていた。世界に放たれた音符は、奏者の心の奥底にある感情を内包して彷徨い、いずれは溶けるように消えてゆく。  そしてはるかは音符の中に閉じ込められた「奏者の想い」を掴まえることができた。     
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