いつだって音色は

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 はるかが涼太の音符に限って触れるのをためらうのには相応の理由があった。涼太の音符に秘められた「想い」がどんなものか、つい先日触れ、知ってしまったからだ。  けれども幾ばくかの罪悪感よりも好奇心が先行し、逡巡したのはほんの一瞬だった。はるかは人差し指をその音符に差し出す。  音符はぽっと熱のこもった真紅の花火を散らし、燃えるように消えた。 『――愛してる――』  その音符の(こえ)に胸が高鳴り、はるかの頬もぽっと紅潮する。  ――やっぱりそうだ、高円寺先輩は誰かに対して熱い想いを抱いているんだ。  大学受験を控えた身でありながら、いまだにアンサンブル部を続けていて、そして秋のコンクールで全国大会を目指しているのは、きっとその情熱の向かう先である「誰か」と関係しているのではないかと、はるかは想像していた。  ――だって音色にその想いを込めているんだもん。  そして、その「誰か」はこのアンサンブル部員ではないことは確実だった。惜しげもなく燃えるような情熱を舞い上がらせながらも、向かう先がこの狭い空間の中にいる特定の人間でないことは、音符が迷子のように彷徨っていることからすれば明白だった。  ――高円寺先輩が想う人って、一体誰なんだろう。どんな素敵な人なんだろう。     
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