127人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
麗のすらっとした脚は歩幅も広く、すたすたと先を行く。はるかは遅れないようにとその後からちょこちょこ早足で追いかける。
――まるで飼い主に散歩させられているペットみたいだなぁ。
そう思い無言の背中を眺める。
――やっぱり怒っているのかな?
こんな時に麗が口笛でも吹いていたのなら、どんな心中か察することが出来たのにとはるかは思うけれど、そんな都合よく音符が飛び出してくれるはずはない。
――ほーんと、役に立たないよなぁ。
すると麗が向かっているのは、駅とは逆の、閑静な高級住宅街の方向だった。
木々が生い茂る公園の小径を抜けてゆく。どこからともなく聞こえる鳥のさえずり、さらさらと湧き出す噴水。それに澄んだ青空にうろこ雲が浮かんでいる。自然の音色が舞っていた。
着いたのはそのほとりにある小さな喫茶店。こげ茶色で木目調の壁にアイビーが絡んで風情がある。
――なんだか大人っぽい感じのお店。
麗は「ここよ」というと、その店の扉に手をかけた。カラン。
軽やかな鐘の音が響き、麗は躊躇なくその中に足を踏み入れた。はるかも後に続く。
店の中はレトロな食器やアンティークの小物がところどころに飾られていて、雑然としているけれど趣がある。壁に取り付けられたオレンジのブラケットの灯りもおぼろげで落ち着いた雰囲気だ。
最初のコメントを投稿しよう!