いつだって音色は

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 涼太の成績は学年トップクラスだ。父親が大学病院の医師らしく、将来は本人も医学部に進学するつもりらしい。幼い頃から涼太を知る、ごく近しい人間の話というから信憑性は高い。それなのにフルートの練習に対する熱の入り方は、まるで受験を控えた三年生とは思えない。  きりっとした顔のラインに切れ長の目が凛々しい。艶のある栗色のくせっ毛が奏でるリズムに同調してふわりと揺れ、元来の色気をより際立たせる。二次元の世界で描かれたエリートが現実世界に飛び出してきたような浮世離れ感すら漂っている。  それでいて演奏する楽器がフルートというのも不似合いに思えてならない。ポピュラーな楽器であれば一通り扱えるらしいのに、専らフルートしか練習していないようなのだ。  ――どうしてなんだろう?  はるかがぼんやりと涼太のフルートを演奏する姿を眺めていると、唐突に「はるかっ!」と声をかけられ、ぽんと肩に手を乗せられた。  はるかはびくっと肩をすくめ、声が飛んできた方を振り仰ぐ。後ろめたさのせいでつい、警戒せず振り向いてしまった。  すると、ぷすっ。  はるかのやわらかい頬に人差し指が刺さった。悪戯なその指の主はクラスメートの山村(やまむら) 菜摘(なつみ)。菜摘ははるかの肩に人差し指を立てて手を掛け、振り返るはるかの頬に向けていたのだ。
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