ボーイ・ミーツ・???

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 その険悪な雰囲気を察して止めに入ったのは妹の有紗だった。有紗は涼太の音楽に対する憧憬を察知していたらしく、冷静そうに振る舞いつつも内心憤慨している父にやんわりと説得を試みる。 「お父さん、お兄ちゃんはね、やりたいことが見つかったんだって。やらなきゃいけないこととやりたいことは違うみたいだよ。お兄ちゃん、そうだよね」  そして涼太の顔を見上げる。すると涼太は黙って有紗に頷いた。その三人の様子を見ていた母が結局、その説得に加わってくれたのだ。 「あなた、涼太を信じてあげましょうよ。せっかくの青春時代なんですから、好きなことをさせてあげたいわ」  その民主主義的な支持のおかげで結局、父は首を縦に振った。ただし厳格な条件をつけて。 「成績は常にトップクラスを維持すること。すべてのテストで学年一桁の順位であること。それができなければ音楽は諦めるんだな」  以来、それまでリビングを満たしていたピアノの音色は消え去り、奏でられる音楽はフルートに置き替わっていた。父はいささか気に入らなかったようだが涼太は素知らぬふりをしてフルートを吹き続けた。そして吹きながらいつも思っていた。あの人のことを。  ――約束します。俺はあなたのいる高校に入学して、必ずあなたとフルートを奏でます。千賀 貴音さん――
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