いつだって音色は

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いつだって音色は

 放課後の音楽室はいつだってメロディで溢れかえっている。トランペットの音色は賑やかなオレンジで、チューバは優しい新緑の色、そしてサクソフォンの響きは鮮やかなトパーズ色。  音符たちはみな、音を生み出す者の胸の内を包み込んで、教室の中を所狭しと飛来する。アンサンブル部に所属する二十四名の部員たちは皆、実に色彩豊かな音符を生みだしていた。ほとんどの生徒が何らかの楽器を幼少時よりたしなんでいたらしく、音符はいずれも艶やかで個性的だ。  ある音符は綿毛のように舞い、ある音符は清流のようにさらさらと流れ、そしてある音符は散りばめた星のように音楽室の天井で瞬いている。それぞれの音符がまるで命を宿しているかのように。  そしてこの狭い世界でつかの間の冒険を済ませた音符たちは、楽器を傷つけないように床に敷かれた淡いグレー色の絨毯に染み込んだり、あるいは熱気冷ましのために開けた窓から吹き込む風に乗り、外界へと旅立っていった。     
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