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リベンジ選考会
「ただいまぁ~」
玄関の扉を開けて間延びした挨拶をすると、じゅわっ、ぱちぱちという、フライパンの熱が具材を美味しく変身させる音色が台所から響いてきた。
何気ない生活音ですら小さな音符となってぱらぱらと舞い散るものだから、はるかにとっては夕食の献立が一体どんな料理なのか、すぐさまわかってしまう。
――あっ、今日は茄子の肉味噌炒めね。あたし、これ好き~。
母が作ってくれる肉味噌炒めは若干甘口で適度に柔らかく炒めてあり、豚肉の脂もほどほどに乗っていて、はるかの好みにマッチしている。仕上げに加えたごま油がほんのりとした特有の香りを醸し出し、なおさら食欲がかき立てられる。
軽い足取りでリビング向かうと、エプロンを纏って台所に立つ母の姿があった。リズミカルな包丁の音を途絶えさせて振り向き、はるかに語りかける。
「おかえり、今日は遅かったのね」
その表情はいくぶん不安気にも見えた。
「うん、二学期になったらみんなコンクールを目指すんだって。まあ、あたしは初心者だから眼中にないけどねー」
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