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事件です!
水曜日の放課後。最後の選考会を二日後に控えた、大詰めの日だ。選考会前の部活のある日としては最後となる。
その日、はるかがいつにもまして賑やかな音楽室に足を踏み入れると、ちょうど麗が三人の女子部員に囲まれているところだった。
「今年こそ、全国大会に一緒に出場しましょうよ、麗先輩!」
「麗先輩、今回のコンクールは麗先輩のチームと高円寺先輩のチームの二組ですよね。あたし、麗先輩と同じチームになれたら嬉しいなぁ」
「麗先輩となら、上手く演奏できちゃいそうですから! だって麗先輩、リズムが良くてビブラートが綺麗なんですもの」
やけにテンションが高く、その声は楽器に負けない音量だ。不自然なほどに囃し立てるその様子は周囲も気になっているようで、部員たちの視線がちらちらと向けられるが三人はお構い無しだ。
南野、北川、西山の女子三人組は、はるかと菜摘の一つ上級、二年生の「にぎやかトリオ」。ただいま麗はその三人とお取り込み中。皆、音楽の演奏は経験者で、コンクールのメンバーの有力候補でもある。けれども当確というわけでは決してない。
「こんにちわぁ~」
そそくさと傍を通り過ぎ、はにかみ笑顔で麗に挨拶をする。先日、喫茶店で見せた麗の優しい笑みを思い出す。
――本当は麗先輩って、物腰柔らかい人なのかな。そうだといいなぁ。
そんな期待を込めて挨拶をしたつもりだった。けれども麗は、いつにもまして凍りついた表情をして「こんにちは花宮さん、遅いわよ」と、突き放すような言い方をした。
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