第一章 一冊の本

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 ……しかし、一番叶えたい願い、かぁ……  そう考えると、思い浮かぶのはやはり『お金』だ。  最近バイトを辞めて、若干ながら金欠気味なのだ。だからお金が欲しい。  なら……一応、と。  そう思って、僕は持っていたカバンの中からボールペンを出して、その本に書かれていた文字の下に、小さくこう書いた。 『一万円が欲しい』――と。  他の人が見れば、『もっと金額をデカくしろよ!』と怒鳴るかもしれないが。  ちょっと前に流行った『五千兆円ほしい』とか、そんなのを書いたところで自分の馬鹿さ加減に呆れるだけだ。やるだけ無駄だ、ということだ。  それに、どうせ叶う訳がないんだから。  もし叶ったらラッキー程度の願いなのだから。  だから僕はあえて、その些細な願いをその本に書いた。  そしてその本を僕のカバンの中にしまった。
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