第一章 一冊の本

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 最悪な気分でその場で再びため息を吐くと――僕は一つの違和感に気付いた。  僕の目の前にある椅子――僕のスマートフォンが潜り込んだその椅子の下に。  なんなのかわからないが……“本”のような物が落ちていることに気付いた。  あの揺れで誰かが落としたのか、と一瞬思ったが、この車両には僕一人しかいない。  帰宅ラッシュを終えて、その上終電に近い電車だから乗っている人は数えるほどだ。  そう――今の僕は面倒な講義を終えて、その後友達と遊んだ後で家に帰る途中なのだ。  だからこの車両には僕一人しかいない。  他の車両にはどれぐらいの人が乗っているのかは知らないが、恐らく少ないことは間違いない。  それにしても……おかしなこともあるものだ。  普通、自分が持っていた本が落ちれば、その瞬間、その本を必死になって探すはずなのに、椅子の下にある本はそのままだ。  本の持ち主はそんなことに気付かなかったのか?  それともただ面倒だったからなのか?  要するに――その人にとっては“いらない物”だったのか?  ………………  ………………………………だったら。
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