第一章 一冊の本

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 しかし……この本、表紙にはタイトルが書かれていない。  いや、表紙だけではない――表紙も背表紙も裏表紙も全て――“真っ白”だ。なにも書かれていない。  それに汚れ一つすら見当たらない。まるで包装されていた本を開封したような状態だ。  ――もしかして、これはラッキーなのでは?  自分の懐からなけなしのお金を出して手帳を買うことをせずに、その手帳代わりになるような物を、僕は偶然手に入れたのか?  やはり日頃の行いが良いと、こういうラッキーなことが起こるのだろう。  ……まあ、僕の日頃の行いが『良い』か『悪い』かと問われれば、後者になるけど。  だけどスマートフォンの画面にヒビが入ったのだから、別にこれを貰っても構わないだろう。  ……代償にしては決して安くないけど。  その本を手に入れた僕は誰もいない車両の中の椅子に座り、その真っ白な本の表紙を一枚めくった。  するとそこには大きな文字でこう書かれていた。 『今一番叶えたい願いは?』――と。
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