剣聖編01.プロローグ――剣聖の修行場――

1/4
前へ
/42ページ
次へ

剣聖編01.プロローグ――剣聖の修行場――

 01-1  鬱蒼(うっそう)とした竹林の中に、(さわ)やかな風が吹き抜けていた。  青竹の匂い、そして笹の葉が奏でるサラサラという音に混じって、何かが空を切る音が流れてくる。  ―― ひゅひゅっ! ひゅっ! ひゅんっ! ――  音の出所は薄暗い(やぶ)の奥。直径にしてほんの数メートルほどの開けた場所である。  そこには無数の三日月を描くように日本刀を振るい、白刃を(きら)めかせる一人の少女がいた。 「せいっ! やぁっ! ――りゃぁぁっ!」  とても美しい顔立ちの少女だった。  年齢は十六歳から十八歳ぐらいだろうか? 桜色の着物に(こん)色の(はかま)穿()き、下ろせば腰まで届きそうな黒髪を頭の後ろでまとめている。  彼女の印象を一言で表すなら、おとぎ話の桃太郎を女の子にしたような……といった感じだろうか。 「やぁぁっ!」  長い(まげ)のようにも見えるポニーテールをなびかせ、少女が目の前の竹に向かって刀を振り下ろす。  すると次の瞬間、男の腕ほどもありそうな太い竹が斜めに両断され、他の竹に寄りかかるようにして倒れていった。 「せい! せいっ! やぁぁっ!」  少女が槍のように鋭くなった竹の穂先へ、さらに左右から袈裟斬(けさぎ)りを打ち込んでいく。  傍目(はため)には激しく斬りつけられているようにも見えるのに、竹はほとんど揺れていなかった。いや、それどころか刃が竹に当たったときの音すらしない。  少女の放つ斬撃があまりにも鋭いためか、まるで竹自身が斬られたことに気付いていないかのようだった。 「ふぅぅ……」  少女がようやく斬り返し(※左右の袈裟斬(けさぎ)りを連続で打ち込む稽古)をやめ、刀をゆっくりと(さや)に納める。  最初に倒れていった部分を除いても二メートル近くあったはずの竹は、そのときすでに彼女の腰あたりまでしか残っていなかった。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加