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(4)
両手一杯の荷物を抱えて玄関を開けると、丁度サクラが何か木枠の様なものもいくつか持って通りかかった所に出くわした。
「おお、ご主人もご苦労であるな」
「それ、何運んでるんだ?」
「んっふふ。まあ客間へ行けばわかるのである」
今度は何をしているんだ。
何やら楽しそうなサクラのあとについて行くと、木枠の正体はすぐに判明した。
「……ベビーベッドなんてどこにあったんだ」
サクラが運んできたものを爺ちゃんが組み立てている。
「大昔にお前が使っておったんじゃ」
もう十七年くらい前って事じゃないか。
けれど、型は古いものの傷んでいたりはしていないように見える。
「……物持ちがいいにも程があるでしょ」
「時々押し入れから出してお手入れしておいたのよ。そのうち使う機会もあるかもしれないと思って」
婆ちゃんが新品のタオルケットやら何やらを持って客間へ入って来る。
爺ちゃんが組んだベッドにそれらを敷くと、急ごしらえで用意した割には充分な赤子用の住環境が出現した。
「フハハ、立派な塒ではないか」
「そうね。とりあえず今日の所はこんなもんでいいんじゃあないかしら」
「……あれ、そう言えば赤ん坊は?」
「うむ。流石にここでガチャガチャやっておってはアレだと言う話になってな、居間に一時退避させて咲に見させておる」
まあ、それもそうか。
「婆ちゃん、買ってきたものはどうしたらいい?」
「ああ、そうね。粉ミルクと哺乳瓶はお台所に持っていくわね。あとはどの道ここで使う事になるから、とりあえずそこでいいわ」
「じゃあ、日野さんに声かけてくるよ」
僕は客間を出て居間へ向かった。
「日野さん、ベビーベッドの方は準備でき――」
「――静かに」
客間へ入るなり日野さんに声を抑えるように窘められた。
「ごめんなさい」
小声で謝りつつ、赤ん坊の様子を窺ってみる。
「……」
ううむ……どこからどう見ても普通の赤ん坊にしか見えないんだけどなあ。
規則正しく寝息を立てているこの子も、何かの怪異に連なる妖の類であると言われても、見た目からは想像できないものである。
ただまあ、サクラも言っていたが鵜野森神社の敷地内で普通にしていられると言う事そのものが悪性でない事の証であるらしいので、そのあたりは懸念を抱く必要はないのだろうけれど。
「で、日野さん。この子ベッドに連れて行けるようになったけど……」
小声のまま日野さんに告げると、日野さんは赤ん坊を起こさないようにと慎重に抱え上げた。
ベビーベッドに収まった赤ん坊が変わらず穏やかに寝ているのを確認し、僕らはとりあえず自分たちの食事を先に済ます事にしたのだが。
「……今、何と?」
「お前も当面一階で寝起きしろと言っておる」
爺ちゃんが何だか不穏な事を言い始めた。
「出自はどうあれ、お前はその子の命を拾ってきた。手を差し伸べる者は助けた命に対してその先を見届ける責務がある。去年も言った事じゃ」
それは確かに一年前、大怪我したサクラを猫又と知らずに保護した時に言われた言葉ではある。
僕も爺ちゃんのあの言葉は今でも正しいと思っている。
思ってはいるのだが。
「……って言ったって、下に空いてる部屋なんて……」
「ここで寝起きすればよかろう」
「ナチュラルに理不尽過ぎる」
何か身体が休まる気がしない。
とは言え流石に僕まで客間は色々マズい気がするので、しばらくはそこらへんが落としどころなのだろう。
また一筋縄ではいかない日々が始まりそうな予感をひしひしと感じていた。
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