一章 真夏の珍客

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 (8) 「仲がいいのは結構だけれど、二人並んで私の授業中に舟を漕ぐとはいい度胸ね……」  目を開けると、頬を引き攣らせながら僕らを見下ろす担任の山崎先生の姿が在った。 「……あ……あは、は」 「す……すみません」  ……まずい。  山崎先生は春先に合コンに失敗してからというもの、以前ならばおめこぼししてくれたような事も頻繁にアウト判定になるからなあ。 「朝霧君は課題ね。日野さんはまあ初回だから気を付けなさい」  裁定に差が出てしまった。  ……くそう、前科が仇になったか。  日頃の行いは大事である。 「いやー四限はホントしんどかったんだって。こいつら二人同じタイミングで首がカクンカクンし始めたから周りの連中みんな笑い堪えるの必死だったんだぜ」 「日野っちも段々朝霧君に毒されてきたねぇ」 「……」 「……日野さんも居眠りしてたんだから恥ずかしいからって僕を睨まないでね」  昼休み。  僕と日野さんに御島さん、そして腐れ縁の高橋悟を加えた四人で昼食をとるのが春以降のいつもの流れになっているのだが。  悟は先刻のダブル居眠りが随分ツボにハマったらしく御島さんにも早速バラされてしまった。 「しかし何でまたそんなに眠そうなんだ?」 「いやまあ、それは……」  僕が言葉を濁していると御島さんが「あ」と言う顔をした。 「もしかして昨日言ってた親戚だか知り合いだかの赤ちゃん預かってるとかってやつ?」 「うっ……」  ズバリ言われて横目で日野さんをチラ見すると、僕の方をジト目で見ている。  そう言えば昨日バッタリ会った事は言ってなかったっけ。 「うん、まあ……そんなところで。随分やんちゃな子でさ……」 「あー、赤ん坊か……ウチも下の弟は俺が小四の時に生まれたからさ、夜中とかすんげー泣くし色々大変だったから少しわかるわ」 「そ、そうなんだよ。夜泣きが中々強烈でさ。何回起こされたか覚えてないんだよ」 「なるほどねえ。んじゃあ、日野はまた何で居眠り?」 「……それは……色々」  ……目が泳いでいる。  僕から見てもそう見えるのだから、悟や御島さんからすれば明らかに何か隠しているふうに見えるかもしれない。  とは言え、日野さんが我が家に月の半分くらい滞在している事は無論二人は知らないし当然言えるわけもない。 「むむ……これは日野っち、何か隠していますなあ」  意地の悪い笑みを浮かべつつ、手をワシャワシャとやりながら御島さんが日野さんに近付いて行く。 「白状するまでやめんぞー!」  そのまま背後から抱き着いて日野さんをくすぐりはじめた。 「ちょっ、ちょっと御島さんっ! ひゃっ! ふふっ! やめ……うふふっ!」 「おー……何か始まったぞ」 「……南無」  尊い犠牲に手を合わせる僕に、 「……お前それ神社の子がやる事じゃねえだろ」  悟は苦笑して焼きそばパンに噛り付いた。
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