1/1
587人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ

「む……? ご主人達……ソレは一体どうしたであるか?」 「あらあら……どうしましょう」  陽も落ちないうちから一杯やっていたのか、スルメをくわえながら玄関を開けてくれたサクラが真顔になり、洗濯物を取り込んで二階から降りて来た婆ちゃんが目を丸くする。 「い、いやあ……何と説明したらいいやら……」 「婆さん、これから町会の集まりに――」  二人に事情を説明しようとした矢先、外出の用事か何かで居間から出て来た爺ちゃんとも鉢合わせした。 「…………」 「……えーと」  爺ちゃんは僕と日野さんを見て絶句し、怪異だって裸足で逃げ出すんじゃないかと思うくらいの目で僕を睨んだ。 「…………夢路。貴様は嫁入り前の他所様の娘に何を――」 「誤解! 誤解だって爺ちゃん! だいたい辻褄合わないだろ!」 「言い訳は済んだか」  眼球寸前で爺ちゃんの抜き手を受け止める。 「じ……爺ちゃん、孫の眼球に全力の突きはやめて……!」 「あの、宗一郎さん、ホントにそういうんじゃなくて!」  慌てて爺ちゃんを日野さんが宥めに入る。 「……む」 「その……鳥居の下に、寝かされていたんです」  日野さんは抱えたそれを改めて三人に見せる。 「――この子が」  生後いくばくも経たないくらいの子供。  僕と日野さんは学校からの帰り道、所謂置き去りと言うものだと思われる子供を、境内へ続く階段の鳥居の下で見付けたのである。  ――それは特に陽射しの強かった夏ある日。  朝霧家始まって以来の、賑やかな日々の始まりだった。     ――鵜野森町奇譚 第四篇――
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!