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ブーゲンビリアの花人形
【ブーゲンビリアの花人形】
小さくて平和な国の、大きくて大切な秘密。曰く―――その国には、『花人形』がいるらしい。
誰も名前を知らない花から生まれるそれは、外見は人間と何ら変わらないものの、人間にはない特別な力を秘めているという噂だ。…とはいえ、そんなことは私にとっては至極どうでもいいことである。
「わー! すっごい! 超キレイ!」
この国の人間なら誰でも知っているけれど、けして近付こうとはしない絶景ポイント。周囲の制止の声は聞こえないフリをして、私はこの場所へとやって来たのだ。
強めの風が、後頭部で結った髪を揺らす。空色の瞳を引き立てる夜を写し取った様な黒髪は、私の自慢だ。風と一緒に頬を撫でていく髪の感触に目を細める。やはりここまで来てよかった。
しかし、楽しい時間というものは長く続かないものらしい。
「おい! そこで何をしている!」
「あ、お仕事お疲れ様です! 見て分かる通りですよ?」
「見て分かったら聞いてない! ほら、こっちにこい!」
「いったーい! 引っ張らないで下さいよー」
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