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「アルファケンタウリ第5惑星に到着まで、あと3時間。船員は活動開始用タブレットを服用してください」
美しいが抑揚のない女性の声の船内アナウンスが響き、僕は目を覚ました。カプセルのハッチは既に開かれ、見覚えのある女性が、心配そうな顔で僕をのぞき込んでいた。あれ?誰だっけ?そうだ、この奇麗な顔は右横のカプセルの女性だ。
どきっとして、なんて言葉を口にしていいかわからず、思わず
「おはよう」と言ってしまった。
彼女は安堵の表情を浮かべ、
「もうすぐ到着よ。人口冬眠が解除されても、なかなか目を覚まさないので心配したわ」
と言った。
船が地球を出るときは、人口冬眠の説明などでとても忙しく、言葉を交わす暇などなかった。
しかし、彼女はとても親身に僕に話しかけてくれている。
活動開始用のタブレットを口に含み、そして、ほんの少しだけ勇気を振り絞り、
「幾度となく人口冬眠から覚める45分の間、僕は君とピクニックをする妄想してたんだ。
だって、カプセルで眠る君の横顔がとても素敵だったから」
と口にした。
彼女の顔がみるみる赤くなった。
「なんて偶然かしら。実は私もカプセルで眠るあなたの横顔を見て、一緒に暮らす想像をしていたわ」
「僕の名前はマサキ。マサキ・モリモー。天文学者として参加した。君の名前は?」
「私はセツナ・ベンジャミン。生物学者よ。セツでいいわ」
「じゃあ、行こうか。セツ」
「そうね、マサキ」
僕たちは手をつなぎ、ほかの多くの船員たちと一緒に、船から外に出るための環境対応室に入った。
重力と大気が地球とほぼ同じ環境だとは言え、違う惑星に降り立った彼らを、これから幾多の試練が待ち受けるだろう。
そのようななか、もし、偶然乗り合わせた異性が運命の相手だと思うことが出来たら、どんなに心強い支えとなることか。
隣合うカプセルの異性を、お互いに好印象をもつようにした電気信号を、人口冬眠から覚める瞬間に脳に送るようにしよう。
彼らに幸多からんことを。
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